「「石油」の終わり エネルギー大転換」 (松尾博文)

 「石油」の終わり。電気自動車も現実となっている現状で、そう遠くない未来に価値が下がる「石油」。そんな今後のエネルギーを考えさせられた一冊である。
 日本は中東に原油の8割を依存する。オイルショックで痛い目にあったはずの日本は、混迷を増す中東に、なぜ今も依存するのか。震災前の日本は電力の約3割を原発で賄っていた。悲惨な事故を経験した日本がどうしてもう一度、原発を動かさなければならないのか。理想を語るのはたやすい。
 しかし、グローバリズムの進展とその真逆の偏狭なナショナリズムポピュリズムの台頭。内向きになる米国と拡張主義に走る中国。目に見える脅威となった地球温暖化や速度を上げるイノベーション。変数が複雑化する一方で、安全性、環境、経済性、安定調達といった、すべての条件を満たすエネルギーは存在しない、ということが明確になってきた。残された道はこれらの優劣を考えた最適な組み合わせを見つけること。利点を最大限生かし、弱点を補う最善策を準備する現実的な解を探る努力をこれからも続けるしかない。
 福島第一原発廃炉は30年、40年がかりの作業だ。「まだ山に登り始めていない。山の高さもわかっていない」。しかし、何年かかろうと、登らなければならない山だ。途中で投げ出すわけにはいかない。何より事故によって故郷を離れざるを得なくなったたくさんの人々がいる。このことを忘れるわけにはいかない。非常に示唆に富んだ提言である。