「万事正解」(角野卓造)

 渋い劇団俳優・角野卓造近藤春菜の父ではない。「渡る世間は鬼ばかり」に出てくる役の印象が強いが、この「万事正解」、前向きな人生で読んでて楽しませてくれる。
 最初は酒呑みのお話。居酒屋はひとりにかぎるといい、初めてのお店に行く時は「口開け」を選ぶようにしているという。その理由は、先にお客さんが入っているより、誰もいない空間にいたいようで、常連客で盛り上がっている中に入っていくのは躊躇があるという。共感したいが、17時前の入店は一般サラリーマンには厳しい現実である。
 居酒屋とは異なり、家吞みも楽しんでいるという。楽しみは「デパ地下」でお惣菜をちょこちょこと買い込むこと。伊勢丹新宿本店のおすすめは、干物が旨い「魚谷清兵衛」、懐石料理の「東京吉兆」、いかの白作りが絶品な「新潟加島屋」、豆腐が美味な「MISOSUKE」。どれも読んでて美味しそうである。ランチョンマットをテーブルに広げて、お惣菜を小洒落た豆皿に並べる。妻と向かい合って、お酒を一杯やりながらお惣菜をつまめば、これはなかなかの素敵な時間となる。こんな生活に憧れる。
 最後に、人生は「あみだくじ」。あみだくじは、線が足されると分岐していく。つまり人生も、要所、要所で出合いがあり、出来事があり、それによって線が足され、別の方向に進んでいく。自分の人生の「あみだくじ」を逆にたどっていくと思い出が蘇る。いい例えである。自分も時間がある時に辿ってみたい。